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大阪高等裁判所 昭和62年(ネ)2146号 判決

控訴人(被告) 金沢潔

被控訴人(原告) 樋屋製薬株式会社

原審 大阪地方昭和五九年(ワ)第六二一〇号(昭和六二年一〇月一四日判決、一九巻三号三八九頁参照)

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の事実摘示中の控訴人と被控訴人関係部分と同じであるから、これをここに引用する。

一  原判決一一枚目表二行目の「三一一条」を「三二条」に改める。

二  控訴人の主張

1  被控訴人は、被告(控訴人)商標(以下単に「被告商標」という。)の登録を無効とした審決の取消請求を棄却した東京高裁昭和五五年(行ケ)第二三号事件の判決が確定した昭和五五年一二月二五日よりも前の同年一一月八日に本件商標権を放棄したのであるから、本件請求は理由がない。

2  被告商標の使用料について

昭和四九年九月一日から昭和五五年一一月七日までの間に控訴人が被告商標の使用料として報国製薬株式会社(原審相被告、以下「報国製薬」という。)から受け取つた金額は四九二万二三七〇円にすぎない。すなわち、報国製薬は、昭和五四年三月三一日に香港で「樋屋」なる名称の記載のない登録商標を取得し、翌四月一日以降は香港向けの商品についてはすべてこの商標を使用していたが、その売上高は本件商品の総売上高の三〇パーセントである(したがつて、右の日以降はこの分の使用料が控除さるべきである。)。また、報国製薬の昭和五〇年一一月一日から昭和五一年一〇月三〇日までの間の本件商品の売上高は三六〇〇万八一八四円である。そして、控訴人と報国製薬との間においては、使用料の額は本件商品の売上高の三パーセントと定められていた。

三  被控訴人の主張

控訴人の1の主張は争い、2の事実は否認する。

理由

一  当裁判所も被控訴人の本訴請求は原判決が認容した限度で正当として認容すべく、その余は棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の理由説示と同じであるから、これをここに引用する。

1  原判決一二枚目表一一行目(編注、一九巻三号三九八頁九行目)の代表者の次に「(原審)」を加え、一四枚目裏七行目(同上、四〇〇頁七行目)の次に改行のうえ次の説示を加える。

「 なお、右のように商標権放棄の効力は遡及しないのに対して、商標登録無効の審決が確定するとその商標権は初めから存在しなかつたものとみなされるのであるから(商標法五六条、特許法一二五条)、被控訴人が前記東京高裁の判決の確定前に本件商標権を放棄したからといつて、本件のような不当利得返還請求が許されないことになるわけではない。したがつて、控訴人の当審主張1も失当である。」

2  原判決一四枚目裏一二行目から一五枚目裏二行目まで(同上、四〇〇頁一一行目から四〇一頁一行目まで)を次のように改める。

「 しかし、商標登録の無効は特許庁における審判手続によつてのみ判定されることができ、同手続において商標登録を無効とする審決が確定しない限り、裁判所としてはこれを友好なものとして扱わなければならないと解されるから、本件商標について登録無効事由の存在をいう控訴人の右主張はそれ自体失当である。」

3  原判決一五枚目裏七行目(同上、四〇一頁四行目から五行目にかけて)の「当該商標と同一の商標」を「当該商標又はこれに類似する商標」に改め、同一一行目の「被告ら」から一六枚目表三行目末尾まで(同上、四〇一頁六行目から九行目まで)を次のとおり改める。

「 成立に争いのない甲第一一、第二五号証、乙第二九ないし第三一号証、第三七号証、原審での控訴人本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第二、第一六号証、第二二号証の一、第三三、第三四号証、弁論の全趣旨により控訴人側販売の本件商品のパツケージの一部と認められる検乙第四、第五号証、当審での和解成立前の控訴人会社代表者尋問の結果により真正に成立したものと認められる丙第一六号証の一、二、右控訴人本人及び控訴人会社代表者各尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、(1)控訴人の先々代金沢利三郎は、古くから本件商品の製造販売を家業としていた樋屋の当主第一〇世坂上忠兵衛の番頭をしていたが、明治三二年ころ、同家から暖簾分けを受けたとして妻乾リキを形式上の名義人として乾知生堂の屋号で本件商品の製造販売を開始したこと、(2)昭和一二年に利三郎が死亡し、その婿養子久治郎が跡を継いだが、同人(名義上は乾リキ)は、昭和一六年三月四日被告商標とほぼ同一の商標(甲第一一号証)について登録の出願をし、昭和一八年四月五日にその登録を得たこと、(3)そして、同人はそのころから右の商標を本件商品に使用していたこと、(4)昭和四六年に久治郎が死亡し、控訴人が久治郎の権利義務を相続したこと、以上の事実を認めることができるけれども、本件商標の登録出願時である昭和二五年七月一九日当時において、右の久治郎使用の商標が同人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたことについてはこれを認めるに足りる証拠はない。」

4  原判決一六枚目裏七行目(同上、四〇一頁末行の後出の『被告会社』)の「被告会社」の前に「原審での」を、一七枚目裏三行目(同上、四〇二頁一二行目)及び一八枚目裏一行目(同上、四〇三頁六行目)の各「被告会社」の前に「前掲」をそれぞれ加え、一九枚目表末行(同上、四〇四頁六行目)の次に改行のうえ次の説示を加える。

「 控訴人は、当審主張2において、控訴人が右の全期間中に被告商標の使用料として取得した金額は合計四九二万二三七〇円にすぎないと主張するところ、前掲当審での控訴人会社代表者尋問の結果中には一部右の主張にそうかのような供述部分(輸出用の商品の商標使用料に関する部分)があるけれども、右供述は同代表者の原審での供述と対比してたやすく採用できないし、そのほかに前記認定を左右するに足りる証拠はないから、控訴人の右主張は採用できない。」

二  よつて、右と同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 今中道信 仲江利政 島越健治)

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